河井寬次郎記念館をWebサイトで検索すると、Kawai Kanjiro’s House という英文表記が出てきます。Memorial museum of Kawai Kanjiro ではありません。これが河井寬次郎記念館の特徴をよく表していると私は思います。その意味でも、この写真集の主人公はあくまでも、河井寬次郎記念館そのものなのです。もちろん河井寬次郎自身の在りし日の写真も掲載されてはいるのですが。
河井寬次郎記念館に行かれたことのある方はご存知の通りこの場所は、嘗て河井寬次郎が作陶を始め、書や彫刻・金工などの創作活動を行い、河井家の人たちが暮らしていたところでもあります。食住隣接という意味では京都の町家に近い造りですが、構造的には町家ではありません。寬次郎が図面を引き、安来の大工の棟梁でもあった兄・善三郎によって1937年(昭和12)京都五条坂に建てられました。寬次郎亡き後も、その家族たちによって守られ1973年(昭和48)に河井寬次郎記念館として開館し、2023年(令和5)開館50周年を迎えました。本書はそれを顕彰し、広報するために企画・制作しました。
写真は、水野克比古・秀比古さん。親子二代に渡り、京都の四季を美しい写真で遺されており、河井寬次郎記念館も隅々のディテールまで記録されています。記念館は被写体としても素晴らしい場所なのですが、水野さんの撮られた写真のすごいところは寬次郎の気配まで写し撮られているところです。写真の其処此処に寬次郎がいるのです。
またこの写真集では、寬次郎直筆の言葉も掲載しています。寬次郎は「すべてのものは自分の表現」「暮らしが仕事 仕事が暮らし」などの名言をたくさん遺しています。それらも写真と共に楽しんでいただけるよう工夫しました。 記念館に行かれたことがある方は、そのディテールを。まだ行かれたことのない方は、寬次郎やその家族が暮らした風景を想像しながら、その美しい佇まいを楽しんでいただければと思います。