無盡藏

新刊

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京都の町家に学ぶ たしかな暮らし

『京都の町家に学ぶ たしかな暮らし』松井 薫著 学芸出版社、2023年11月

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「京町家再生研究会」「京町家作事組」「京町家友の会」「京町家情報センター」という4つの組織からなる「京町家ネット」という京町家について考え、活動するグループがあります。元々は京町家とはどういうものかということを考え、どのようにしたら保存・承継できるのかを考える建築士の方たちによって「京町家再生研究会」が1992年(平成4)にスタートしました。いろいろと勉強会を重ねるうちに、実際に保存・修復する必要に迫られ建築士や左官屋さん、大工さんらを交えて「京町家作事組」が出来ました。ハード面の研究が進むと今度は建物だけではなくて、そこに住む人たちの暮らしや歳時などの保存・継承もしていく必要性が生まれ、1999年(平成11年)に「京町家友の会」が誕生します。そして2002年(平成14年)、京町家を借りたい方と貸したい方を結ぶ「京町家情報センター」が出来たのも、必然だったのかもしれません。

私が京都に住むようになったのも、「京町家友の会」に入会したことがきっかけでした。そこでこの本の著者である一級建築士の松井薫さんと出会うことになりましたが、当時、松井さんは「京町家情報センター」の責任者をされていました。爾来、20年ほどのおつきあいになりますが、折に触れてその京町家に対する専門知識だけでなく、政治や経済まで幅広く見渡しながら問題提起されておられる姿に感心することも多々ありました。

また松井さんは、ご自身で「自然体で行こう」というフリーペーパーを年4回発行されています。自腹で印刷費や郵送費を賄っておられますが、毎回濃い内容に頷くファンも多く、編集者でもある知人の山形恭子さんから、ある日、「自然体で行こう」を纏めて本に出来ないかと相談を受けました。それがこの本を作るきっかけでした。

冬の凍える寒さの中にも感じる、縁側の陽だまりの暖かさ。
春になり、庭の木々の吹き出すような新芽を目にするうれしさ。
真夏、外から帰ってきた時の、ほの暗い家の中のほっと涼しい空気。
やっと暑さがおさまって冬へと向かう季節の、逆光に映える紅葉の美しさ。
それらが何気ない日常に色合いを添え、
また巡り来た季節に過去の自分を重ねる……。
町家の生活の中で感じられるさまざまな事柄が、町家という建物とどう関係しているのか、それを解き明かしていきたい。

「はじめに」に書かれた松井さんの文が、この本を総てを物語っています。またゴリラ研究家の山極壽一さんとの対談はたいへん興味深く、田口葉子さんによる町家の美しい写真の数々もこの本に彩りを添えています。